四季送り 2025/05/24 Sat 四季送り げんみ✖ 昨晩寝付けなかったので考えていた話。 真夏の錦玉さんに差し入れしたいだけのSS。 ※本当にこれで美味しく作れるかはわかりません! 試作したいけど無花果出回るのってリアルタイムまだまだ先でしてorz続きを読む◆ 蝉の鳴き声が暑さを運ぶ昼下がり。 錦玉との入れ替わりで休憩に入ろうとバックヤードに向かえば、アイスバーを咥えて扇風機に当たる錦玉が居た。 バックヤードにも最低限の空調は入っているのだが、キンキンに冷えているわけじゃない。一見涼し気な光景をとっても、前髪が額に張り付いてたり、耳後ろからほつれて垂れている髪が細いひと房となっているのが昨今の猛暑っぷりを物語っている。夏の温度と一緒に光熱水費も上がってしまうの……あ、これが比例の関係か。何とかならないのだろうか。 「錦玉。休憩、延長?」 僕は構わない。そう訊ねてみたのだが、「いえ。これ食べたら行きます」と断られた。 「雲平さんも休憩は必要でしょう」 「問題無い。時間、有効活用。錦玉の休憩のが良い」 「夜、学校あるんですよね?」 「……ん」 そう言われてしまえば、反論が難しくなる。 夜間学校はとても疲れてしまう。帰宅して、なんとかシャワーして、ご飯も食べずにソファで寝てしまったこともあった。まだ慣れてないのかもね――なんて話をついこの間、皆と祝たちとで話題にされたばかりだったから、余計に言い返せない。 そういえば、帰宅後のご飯について『学校で夕食食べてるんですよね?』と錦玉に確認されたんだったな……。何故か呆れられているように感じて不思議に思っていたから、覚えている。 「昼寝くらい、今のうちにしておいては?」 「んー……」 反論を思い付けずに呻くうちに、いつの間にか、錦玉の手には丸裸の木の平棒だけが残っていた。立ち上がる際に前髪の隙間から覗いた目元は、暑さやられだけじゃない疲れ、或いは軽度の不調が見て取れる。 「体調、悪い?」 「そんなことは……ああ、もしかしたら軽い貧血はあるかもしれませんね」 「ひんけつ、……怪我した!?」 驚いて錦玉を見れば、手の動きでストップをかけられる。 「怪我じゃないです。気にしなくて良いことですよ」 「怪我じゃないけど、血が足りない? 血は大事、減りすぎ危険。無理しない」 「軽度ですし、本当に問題ありませんから。"雲平さんは休憩をしていてください"」 それじゃ、と半ば強引に話は終了させられて、錦玉はホールへ戻っていく。 閉まったドアを眺めて、僕は困っていた。 休憩しろ、と命令されても、休憩していられる状態――気分? じゃない。 「休憩、……体力回復。気力回復? 気分転換?」 いくつかの解釈と案を並べてみる。時間を無駄にせず、だけど休憩も満たせる方法。 「気分転換に、お腹を満たせて、体調も良くなるのを作る」 そうすれば休憩と時間の活用と良いことと、3点満たせるのではないだろうか。 思いついたなら、早速。 「旬の果物、身体に良い。無花果。あと、飲む点滴――」 あとは豆乳も。これらは女性の身体にも良いものだと、料理番組や朝のワイドショーのコーナーでも耳にはした。いそふらぼん、だっけ。柘榴の方が良かったかもしれないが、農園には無いので仕方ない。 裏庭に出て、農園近くの無花果を選ぶ。旬のもの、かつ、ほどよい大きさのものを収穫する。 バックヤードの調理台まで持って行って軽く洗うと、今度は冷蔵庫から豆乳と甘酒を拝借。 「(ぶっつけ本番。早速作ってみよう)」 調理器具も揃えて、いざ。 まずは収穫して洗った無花果の上部1/3あたりを水平に切り取る。ぱかっと外すのを真横から見れば、器のように見えるだろう。事実、断面にスプーンを立てて、中身をくりぬけば無花果の皮部分を器にした小鉢に見えてくるだろう。 くりぬいた果肉の一部は別にして、白味噌と練り混ぜる。ぷちぷちとした種の食感が少し残るだろうが、これがあとで食感の変化として機能すれば良い。残りは食べやすい大きさにダイスカットしておく。 無花果と白味噌は一度冷蔵庫に入れて冷やしておくとして、次は豆乳と甘酒だ。 小鍋に豆乳と甘酒を入れて火にかける。沸騰直前で火を止めたら、ふやかした粉ゼラチンを加えてよく溶かす。氷水を張ったボウルに鍋底を浸けて混ぜながら粗熱を取ったら、冷やした無花果の小鉢を冷蔵庫から取り出す。そっと小鉢の中に甘酒豆乳を注ぎ入れて、泡があれば竹串で潰して綺麗に均しておく。 そっと小鉢を冷蔵庫に入れて、固まった頃、小鉢と果肉と白味噌、全部取り出す。 固まった甘酒豆乳の上にダイスカットした無花果の果肉をのせ、白味噌をソースとしてかけてやる。 あとはお好みで細かく砕いたナッツ、ドライマンゴー、千切ったハーブをトッピングしても良いと思う。今回は休憩時間に納めたいから、希望者がいてもセルフサービスにさせてもらう。 良い感じに盛り付けできたら、最後に無花果のヘタを蓋に見立てて飾って、完成だ。 「……ん。口にあえば良い」 緊張する。祝のようにはお菓子作り上手に出来ないし。数は全員試食が出来るくらいには用意出来たのだが、ちゃんと皆の口にあうだろうか。特に錦玉。祝は喜んで食べてくれると自信があるのだが、錦玉の好み、全部はわからないから。もう少し大人っぽい味付けのが良かったりするだろうか。 そのあたりは、"出してからのお楽しみ"、かな。 ――さて、その錦玉へもう一品何かを作るとしたら。お酒のおつまみなら自信がある。 「無花果と生ハム。クリームチーズ。あと、梨のスープデザート? クコの実乗せたのも良い?」 料理とは、その瞬間には心を満たすものだ。時間を経れば食べた者の身体を癒し作り上げていく。 食事中のお客さんの笑顔が好きだと言った祝の笑顔を、僕が作れたらどんなに嬉しいだろう。錦玉が驚き食べてくれるとしたら、どんなポイントからだろう。 祝は、『お客さんが喜んでくれると、料理人冥利につきるよね』って言っていた。"あび"の日向の仕事、好きだって。 「(僕が作ったのも、錦玉たちの美味しいだったら良いな)」 ここまで考えたところで、スマホにセットしておいたアラームが鳴る。もう少しで休憩時間が終わる。 もう一品はまたの機会に。まずは、このデザートを届けるとしよう。 「休憩してきた。祝、錦玉。これ食べて」◆ 杏仁さんやチトセ君、子どもたちの分もあるよ! 外出中を想定して書いたから、店に戻って来たら冷蔵庫にあるよって声掛けようね。◆無花果の甘酒豆乳ムース①粉ゼラチン5gに水大匙1を加えてふやかしておく②形状にもよるが、無花果の上部1/3くらいで横に切る。スプーンで縁取りして中身をくり抜く③くり抜いた無花果を食べやすく切ったら、少量を白味噌に加えてよく練り伸ばす。②の器部分、無花果、練り白味噌を冷蔵庫で冷やしておく④豆乳200ml、甘酒200mlを合わせて加熱する。沸騰直前に火を止め、①を加えて溶かす⑤冷やしておいた②の無花果の器に④を流し入れて、再び冷蔵庫で冷やし固める⑥⑤が固まったら、③のカット無花果をムースの上にのせ、練り白味噌をかける。好みで微塵切りしたドライマンゴー、千切ったハーブを添えるなどして、無花果の蓋をのせたら完成無花果 いくつか豆乳 200ml甘酒 200ml粉ゼラチン 5g水 大匙1白味噌 適量畳む#四季送り #SS
昨晩寝付けなかったので考えていた話。
真夏の錦玉さんに差し入れしたいだけのSS。
※本当にこれで美味しく作れるかはわかりません! 試作したいけど無花果出回るのってリアルタイムまだまだ先でしてorz
◆
蝉の鳴き声が暑さを運ぶ昼下がり。
錦玉との入れ替わりで休憩に入ろうとバックヤードに向かえば、アイスバーを咥えて扇風機に当たる錦玉が居た。
バックヤードにも最低限の空調は入っているのだが、キンキンに冷えているわけじゃない。一見涼し気な光景をとっても、前髪が額に張り付いてたり、耳後ろからほつれて垂れている髪が細いひと房となっているのが昨今の猛暑っぷりを物語っている。夏の温度と一緒に光熱水費も上がってしまうの……あ、これが比例の関係か。何とかならないのだろうか。
「錦玉。休憩、延長?」
僕は構わない。そう訊ねてみたのだが、「いえ。これ食べたら行きます」と断られた。
「雲平さんも休憩は必要でしょう」
「問題無い。時間、有効活用。錦玉の休憩のが良い」
「夜、学校あるんですよね?」
「……ん」
そう言われてしまえば、反論が難しくなる。
夜間学校はとても疲れてしまう。帰宅して、なんとかシャワーして、ご飯も食べずにソファで寝てしまったこともあった。まだ慣れてないのかもね――なんて話をついこの間、皆と祝たちとで話題にされたばかりだったから、余計に言い返せない。
そういえば、帰宅後のご飯について『学校で夕食食べてるんですよね?』と錦玉に確認されたんだったな……。何故か呆れられているように感じて不思議に思っていたから、覚えている。
「昼寝くらい、今のうちにしておいては?」
「んー……」
反論を思い付けずに呻くうちに、いつの間にか、錦玉の手には丸裸の木の平棒だけが残っていた。立ち上がる際に前髪の隙間から覗いた目元は、暑さやられだけじゃない疲れ、或いは軽度の不調が見て取れる。
「体調、悪い?」
「そんなことは……ああ、もしかしたら軽い貧血はあるかもしれませんね」
「ひんけつ、……怪我した!?」
驚いて錦玉を見れば、手の動きでストップをかけられる。
「怪我じゃないです。気にしなくて良いことですよ」
「怪我じゃないけど、血が足りない? 血は大事、減りすぎ危険。無理しない」
「軽度ですし、本当に問題ありませんから。"雲平さんは休憩をしていてください"」
それじゃ、と半ば強引に話は終了させられて、錦玉はホールへ戻っていく。
閉まったドアを眺めて、僕は困っていた。
休憩しろ、と命令されても、休憩していられる状態――気分? じゃない。
「休憩、……体力回復。気力回復? 気分転換?」
いくつかの解釈と案を並べてみる。時間を無駄にせず、だけど休憩も満たせる方法。
「気分転換に、お腹を満たせて、体調も良くなるのを作る」
そうすれば休憩と時間の活用と良いことと、3点満たせるのではないだろうか。
思いついたなら、早速。
「旬の果物、身体に良い。無花果。あと、飲む点滴――」
あとは豆乳も。これらは女性の身体にも良いものだと、料理番組や朝のワイドショーのコーナーでも耳にはした。いそふらぼん、だっけ。柘榴の方が良かったかもしれないが、農園には無いので仕方ない。
裏庭に出て、農園近くの無花果を選ぶ。旬のもの、かつ、ほどよい大きさのものを収穫する。
バックヤードの調理台まで持って行って軽く洗うと、今度は冷蔵庫から豆乳と甘酒を拝借。
「(ぶっつけ本番。早速作ってみよう)」
調理器具も揃えて、いざ。
まずは収穫して洗った無花果の上部1/3あたりを水平に切り取る。ぱかっと外すのを真横から見れば、器のように見えるだろう。事実、断面にスプーンを立てて、中身をくりぬけば無花果の皮部分を器にした小鉢に見えてくるだろう。
くりぬいた果肉の一部は別にして、白味噌と練り混ぜる。ぷちぷちとした種の食感が少し残るだろうが、これがあとで食感の変化として機能すれば良い。残りは食べやすい大きさにダイスカットしておく。
無花果と白味噌は一度冷蔵庫に入れて冷やしておくとして、次は豆乳と甘酒だ。
小鍋に豆乳と甘酒を入れて火にかける。沸騰直前で火を止めたら、ふやかした粉ゼラチンを加えてよく溶かす。氷水を張ったボウルに鍋底を浸けて混ぜながら粗熱を取ったら、冷やした無花果の小鉢を冷蔵庫から取り出す。そっと小鉢の中に甘酒豆乳を注ぎ入れて、泡があれば竹串で潰して綺麗に均しておく。
そっと小鉢を冷蔵庫に入れて、固まった頃、小鉢と果肉と白味噌、全部取り出す。
固まった甘酒豆乳の上にダイスカットした無花果の果肉をのせ、白味噌をソースとしてかけてやる。
あとはお好みで細かく砕いたナッツ、ドライマンゴー、千切ったハーブをトッピングしても良いと思う。今回は休憩時間に納めたいから、希望者がいてもセルフサービスにさせてもらう。
良い感じに盛り付けできたら、最後に無花果のヘタを蓋に見立てて飾って、完成だ。
「……ん。口にあえば良い」
緊張する。祝のようにはお菓子作り上手に出来ないし。数は全員試食が出来るくらいには用意出来たのだが、ちゃんと皆の口にあうだろうか。特に錦玉。祝は喜んで食べてくれると自信があるのだが、錦玉の好み、全部はわからないから。もう少し大人っぽい味付けのが良かったりするだろうか。
そのあたりは、"出してからのお楽しみ"、かな。
――さて、その錦玉へもう一品何かを作るとしたら。お酒のおつまみなら自信がある。
「無花果と生ハム。クリームチーズ。あと、梨のスープデザート? クコの実乗せたのも良い?」
料理とは、その瞬間には心を満たすものだ。時間を経れば食べた者の身体を癒し作り上げていく。
食事中のお客さんの笑顔が好きだと言った祝の笑顔を、僕が作れたらどんなに嬉しいだろう。
錦玉が驚き食べてくれるとしたら、どんなポイントからだろう。
祝は、『お客さんが喜んでくれると、料理人冥利につきるよね』って言っていた。"あび"の日向の仕事、好きだって。
「(僕が作ったのも、錦玉たちの美味しいだったら良いな)」
ここまで考えたところで、スマホにセットしておいたアラームが鳴る。もう少しで休憩時間が終わる。
もう一品はまたの機会に。まずは、このデザートを届けるとしよう。
「休憩してきた。祝、錦玉。これ食べて」
◆
杏仁さんやチトセ君、子どもたちの分もあるよ! 外出中を想定して書いたから、店に戻って来たら冷蔵庫にあるよって声掛けようね。
◆
無花果の甘酒豆乳ムース
①粉ゼラチン5gに水大匙1を加えてふやかしておく
②形状にもよるが、無花果の上部1/3くらいで横に切る。スプーンで縁取りして中身をくり抜く
③くり抜いた無花果を食べやすく切ったら、少量を白味噌に加えてよく練り伸ばす。②の器部分、無花果、練り白味噌を冷蔵庫で冷やしておく
④豆乳200ml、甘酒200mlを合わせて加熱する。沸騰直前に火を止め、①を加えて溶かす
⑤冷やしておいた②の無花果の器に④を流し入れて、再び冷蔵庫で冷やし固める
⑥⑤が固まったら、③のカット無花果をムースの上にのせ、練り白味噌をかける。好みで微塵切りしたドライマンゴー、千切ったハーブを添えるなどして、無花果の蓋をのせたら完成
無花果 いくつか
豆乳 200ml
甘酒 200ml
粉ゼラチン 5g
水 大匙1
白味噌 適量畳む
#四季送り #SS