2025/07/07 Mon 四季送り,NOTEBOOK 四季送り げんみ❌ こんな時間に目を覚ましてしまったので、眠くなるまで書くか。続きを読む 子どもが自分の偽名を“鳬河原 供”に定めた頃の話。 ◆ 「……草?」 「ハーブだよ」 怪訝な表情で干からびた葉を凝視する供に、祝が苦笑する。 季節は春を過ぎて梅雨に差し掛かる頃。ここ数日何やら干しているとは思っていたそれは、すっかりカサカサになっていた。何かに使うのだろうと思っていたが、祝が台所に持ち込んだものだから、供にとっては訊ねずにはいられない。とてもこれが台所に持ち込まれるものだとは思えなかったのだ。 ハーブと言われても、違法なものが脳裏に浮かぶ。供自身はドラッグや大麻の類に直接関与した事が無かったものの、マスコミに大々的に取り上げられて世間に知れ渡った後だ。無理もない。 祝がそんなものに手を出しているとは考えられなくて、供はますます不審がった。 「これね、レモングラスって言うんだ。ほら、香り、するでしょ」 祝はキッチンペーパーに広げたそれを、供に近付ける。少し身構えながら鼻を寄せれば、たしかに、ふわりと良い香りがした。すっきりとした、心地良い香りだ。 「カサカサの葉っぱなのに」 「ハーブだよ」 肩をすくめながら訂正する祝。すぐにはハーブという概念を改められない供に、ひとつ、経験させた方が良いと考えたのだろうか。祝はケトルで湯を沸かす。ポットを用意して、蜂蜜を取り出す。 お茶の準備だと理解すると、供もティーカップを用意した。用意しながらも、やはり困惑気味だ。良い香りがするのは分かった。これと茶の用意に関連はあるのか、と。 「奉弥。ハーブティーって聞いたことない?」 問われて、そう言えば、と遅れて頷く。聞いたことはある。 「これを使って、ハーブティーにするんだよ」 「使って?」 「そう。紅茶なんかも、茶葉にお湯を注いでいただくだろ。ハーブティーは、ハーブを使うんだ。収穫したばかりのハーブを使うこともあるけど、今回は干したものを使う」 ケトルが音を立てる。セッティングしたポットに、祝が湯を注ぐ。 湯の色がポットの中で変わっていくのを、じっと見つめていれば、ふわふわとさっき嗅いだレモングラスの香りが鼻腔をくすぐり始めた。 ようやく飲食物として認識した供が、そわそわし始める。ならば、と祝が予感を覚えてその様子を見つめていれば、その予感は的中する。 「祝、もう飲める?」 「まだだよ」 少し間が空く。 「祝、もう少し?」 「うん。もう少し。2分くらい」 そっか、と頷くと、供はじーっとポットを見つめたまま動きを止める。120秒経つまで数えるつもりなのだろう。 穏やかな待ち時間は、あっという間に過ぎていく。供が120秒経過したのを伝えれば、祝はティーカップにハーブティーを注ぐ。 「一口目、ストレートで飲んでみる? 飲みにくいかもしれないけど」 「飲みにくい? ちょっとだけ、味見する」 どんな“飲みにくい”なのだろう。湯気が良い香りをのせているのを肺いっぱいに感じた後、おそるおそる口に含む。 「……んー、飲める、けど、美味しいが足りない?」 「奉弥は甘い方が好きだもんな。それじゃ、これを加えてみよう」 蜂蜜をハーブティーに加えて溶かす。透明な靄がすっかり溶けるまでスプーンでくるくる回して、再び供の手元へ。 ゆっくりした動作で、それを飲んでみれば、ぱぁ、と空気が柔らかくなった。目が少し大きく開いて、そのまま二口目へと続く。 「美味しい。蜂蜜、とてもまろやかにした!」 「だろうだろう! 今回はレモングラス単体だったけど、カモミールと合わせて飲むともっと風味が豊かで、違う美味しさがあるよ」 「カモミールも草……ハーブ? どこかで、聞いたこと、ある名前」 「そうそう。 レモングラスやカモミールには、効能もあるんだ。特にカモミールは安眠効果だったかな」 「お薬みたい」 「ハーブだからね。健康に良い働きがあるんだ。……悪いハーブとは別物ね」 ぽん、と頭に手を置かれて、供が最初に思い描いていたものが見抜かれたことにちょっぴり申し訳なさを感じる。祝が自分に悪いことを仕掛けるとは思えないとしても、偏った知識ではどうしても思い浮かべてしまうものだ。 しかしこれでハーブティーというものが理解できた。頭の上の掌を享受しながら、ん、と短い返事をして、またハーブティーを味わう。 「祝も飲む」 手付かずのもう片方のティーカップをそっと祝に寄せて促して、ふたりで味見会をする。 なんてことのない、静かでゆったりとした穏やかな時間。飲み終わりに大きなあくびをしてしまうほどの、得難い平穏。 ぽかぽかした体温を確かめ合いながら、次回の話に微笑みを交わすのだった。 ◆ 奉弥が大きなあくびができるって事実だけで、祝さんが与えてるものの大きさを感じてる中の人。 ただ保護しただけじゃないことの証の一つだよな、なんて。見知らぬ子ども、しかも殺し屋であるHO秋と生活するだけでも特異なことだけど、やっぱ共依存(依存をネガティヴな解釈に限定しない)なんだなって思ったり。畳む #四季送り #SS
こんな時間に目を覚ましてしまったので、眠くなるまで書くか。
子どもが自分の偽名を“鳬河原 供”に定めた頃の話。
◆
「……草?」
「ハーブだよ」
怪訝な表情で干からびた葉を凝視する供に、祝が苦笑する。
季節は春を過ぎて梅雨に差し掛かる頃。ここ数日何やら干しているとは思っていたそれは、すっかりカサカサになっていた。何かに使うのだろうと思っていたが、祝が台所に持ち込んだものだから、供にとっては訊ねずにはいられない。とてもこれが台所に持ち込まれるものだとは思えなかったのだ。
ハーブと言われても、違法なものが脳裏に浮かぶ。供自身はドラッグや大麻の類に直接関与した事が無かったものの、マスコミに大々的に取り上げられて世間に知れ渡った後だ。無理もない。
祝がそんなものに手を出しているとは考えられなくて、供はますます不審がった。
「これね、レモングラスって言うんだ。ほら、香り、するでしょ」
祝はキッチンペーパーに広げたそれを、供に近付ける。少し身構えながら鼻を寄せれば、たしかに、ふわりと良い香りがした。すっきりとした、心地良い香りだ。
「カサカサの葉っぱなのに」
「ハーブだよ」
肩をすくめながら訂正する祝。すぐにはハーブという概念を改められない供に、ひとつ、経験させた方が良いと考えたのだろうか。祝はケトルで湯を沸かす。ポットを用意して、蜂蜜を取り出す。
お茶の準備だと理解すると、供もティーカップを用意した。用意しながらも、やはり困惑気味だ。良い香りがするのは分かった。これと茶の用意に関連はあるのか、と。
「奉弥。ハーブティーって聞いたことない?」
問われて、そう言えば、と遅れて頷く。聞いたことはある。
「これを使って、ハーブティーにするんだよ」
「使って?」
「そう。紅茶なんかも、茶葉にお湯を注いでいただくだろ。ハーブティーは、ハーブを使うんだ。収穫したばかりのハーブを使うこともあるけど、今回は干したものを使う」
ケトルが音を立てる。セッティングしたポットに、祝が湯を注ぐ。
湯の色がポットの中で変わっていくのを、じっと見つめていれば、ふわふわとさっき嗅いだレモングラスの香りが鼻腔をくすぐり始めた。
ようやく飲食物として認識した供が、そわそわし始める。ならば、と祝が予感を覚えてその様子を見つめていれば、その予感は的中する。
「祝、もう飲める?」
「まだだよ」
少し間が空く。
「祝、もう少し?」
「うん。もう少し。2分くらい」
そっか、と頷くと、供はじーっとポットを見つめたまま動きを止める。120秒経つまで数えるつもりなのだろう。
穏やかな待ち時間は、あっという間に過ぎていく。供が120秒経過したのを伝えれば、祝はティーカップにハーブティーを注ぐ。
「一口目、ストレートで飲んでみる? 飲みにくいかもしれないけど」
「飲みにくい? ちょっとだけ、味見する」
どんな“飲みにくい”なのだろう。湯気が良い香りをのせているのを肺いっぱいに感じた後、おそるおそる口に含む。
「……んー、飲める、けど、美味しいが足りない?」
「奉弥は甘い方が好きだもんな。それじゃ、これを加えてみよう」
蜂蜜をハーブティーに加えて溶かす。透明な靄がすっかり溶けるまでスプーンでくるくる回して、再び供の手元へ。
ゆっくりした動作で、それを飲んでみれば、ぱぁ、と空気が柔らかくなった。目が少し大きく開いて、そのまま二口目へと続く。
「美味しい。蜂蜜、とてもまろやかにした!」
「だろうだろう! 今回はレモングラス単体だったけど、カモミールと合わせて飲むともっと風味が豊かで、違う美味しさがあるよ」
「カモミールも草……ハーブ? どこかで、聞いたこと、ある名前」
「そうそう。
レモングラスやカモミールには、効能もあるんだ。特にカモミールは安眠効果だったかな」
「お薬みたい」
「ハーブだからね。健康に良い働きがあるんだ。……悪いハーブとは別物ね」
ぽん、と頭に手を置かれて、供が最初に思い描いていたものが見抜かれたことにちょっぴり申し訳なさを感じる。祝が自分に悪いことを仕掛けるとは思えないとしても、偏った知識ではどうしても思い浮かべてしまうものだ。
しかしこれでハーブティーというものが理解できた。頭の上の掌を享受しながら、ん、と短い返事をして、またハーブティーを味わう。
「祝も飲む」
手付かずのもう片方のティーカップをそっと祝に寄せて促して、ふたりで味見会をする。
なんてことのない、静かでゆったりとした穏やかな時間。飲み終わりに大きなあくびをしてしまうほどの、得難い平穏。
ぽかぽかした体温を確かめ合いながら、次回の話に微笑みを交わすのだった。
◆
奉弥が大きなあくびができるって事実だけで、祝さんが与えてるものの大きさを感じてる中の人。
ただ保護しただけじゃないことの証の一つだよな、なんて。見知らぬ子ども、しかも殺し屋であるHO秋と生活するだけでも特異なことだけど、やっぱ共依存(依存をネガティヴな解釈に限定しない)なんだなって思ったり。畳む
#四季送り #SS