No.243

四季送り げんみ❌
 雲平への認識として迷子であり、死期を待つしか無い梟なんだよなって。

 かえりたい、かえれない、かえるところなんてない。祝さんのところがあるのに、数秒間の記憶がここじゃないと叫ぶ。その都度、お前が壊したくせにと己に刃を突き立て引き裂き殺し尽くしても足りない衝動に駆られてしまう。
 かえりたいのが家。家なの? 腕の中。だっこ。時間が経つほどに歪んでいく。

 梟ってのは、奉弥の精神、魂の状態かな。
 雛鳥が親を恐れ暴れ傷つけて、しまいに巣を壊し転げ落ちた。生きるために地面を歩き脚は傷だらけ。泥や血に汚れたまま、人間たちに捕まれ都合良く翼を折られて、こびりついた汚れは羽根や羽毛ごと毟られた。雛は飛び方を教わらないまま獣のように隠れて生きる術を必死に自力で身につけた。その間にも手当されなかった傷や汚れは、当然のように膿んで生涯癒えない病と化す。柔らかな陽射しは皮膚を焼き、心地よいはずの微風は歪に生えた羽毛を引き摺り痛みを与えるばかり。夜になれば月と星が雛を鋭く睨み続けていた。
 それでも陽射しと微風が本来やさしいものだと知ったのは、陽射し、風、星の睨みから守りながら、限られた環境の中でなんとか生きる方法を教えてくれる人間が現れたから。彼は決して雛を無責任に自然へかえすことなく、それこそ生涯共にあり、幸せを願い、実際そのように行動する人だった。
 今更雛が自然に生きる術は無い。健全な発育を得られず、この環境に最適化して生き伸びてしまえたから、もう雛には“これ以上”も“これ以外”も無かった。
 かと言って、雛は陽射しや微風を否定しない。自分は駄目だったけれど、たとえば今このときにも、自分と同じようになり得た別の雛(一月くん)が人のもとで健全に生きている。
 だから、もう良い。
 梟にも獣にも人間にもなりきれない見るも穢らわしい雛は、命になってしまった自分を怨み呪う。一方自分以外へは世界のやさしさがあると信じたくて、信じられるように、どこにもいけないまま、かえれないまま、とべないまま、やさしい誰かの腕の中で夢をみる。
 全部誰かひとりにしか意味がないことだったと知りながら。雛をあやす腕すら、誰かに仕向けられたのだろうと知りながら。居座るほどに、保護してくれた者の腕に流れ矢が当たる危険を知りながら。
 しかしどうしてこの雛に、二度も巣から落ちようと思えよう。最初から死ぬまで耐えて巣に留まれば、雛も他もこうは成り果てずに済んだのに。
 誰かの腕の中で、夢を見る。何者かに不意を突いて射られる時を待っている。病が心の臓を止めるのが先だろうか。それとも。
 雛はもう、動かない。
畳む


追記 それでも希望はあってだな。

 こう成り果ててしまった。好き好んで生きてるわけではないし、ことごとくなるべくしてなったのだと証明しなければならない、などと歪みに歪んだ呪いを抱き歩かねばならないとしても。
「子どもが幸せそうな夫婦と家族のまま生きたとして、それは“僕”じゃない。日向の人間らしくお綺麗な顔で誰かを蹴落としたり、踏み躙って生きていく。無自覚に、無責任に、不誠実に。
 僕はそんな風にだけはならない。なって堪るか。
 僕は、“僕”が許せないと思うものに自ら降りはしない。そうしなきゃいけない、だけじゃない。
 証明するんだ。お前たちが流し損ねた便所紙にだって、誰にでもできて誰もしなかったことをやり通せること。人間たちの怠慢と欺瞞を。誰も認識せず、拒絶し否定したって、事実は消えない。いつか、この獣道が必要な誰かの目に留まったなら、なにかひとつの役には立てるだろう。
 どんな人間であれ、誠実であることくらいはできるのだと。誠実の意味は人それぞれだけど、“誠実”と定め努めるからには易々と違えるものではない。善悪なんて茶々を挟む余地は無い。外部に強いられ差し出すものではなく、自身で定め、鍛え、貫くべきものだからだ。
 ”僕”の誠実に反する僕は“僕”ではない。成り下がるつもりもない。死んで、消えて、痕跡すら掠れて見えなくなっても、この事実だけは世界に刻みつけてやる」

「たとえ無意味、無価値であろうとも。僕にだけ意味がある、自己満足の類であろうとも。
 そうあろうとし、貫けた事実さえあれば、『無い』から『有る』ことになる。0より余程、意味のあることじゃないか」
「いつか僕になる汚泥(僕達)への冥土の土産であり、いつか生じるかもしれない僕のような誰かへの置き土産だ。不要なら捨て置けば良い、取るに足らないちっぽけな、しかし僕には生涯を賭けてでも貫かねばならないなにかなんだ」
 畳む

#四季送り #呟き